書籍の感想

【小説『鹿の王』上橋菜穂子】あらすじと要約&感想(ネタバレ含む!)

”上橋菜穂子” さんの小説「鹿の王」のあらすじと要約、読んだ感想をお伝えしたいと思います。

感想にはネタバレも含みますので、まだ読んでいない人はご注意ください!

小説『鹿の王』のあらすじと要約

精霊の守り人で第34回野間児童文学賞を受賞した、上橋菜穂子先生の最新作の小説です。

今までのシリーズの持ち味であった、ファンタジーでありながら読者に「この世界のどこかに本当に存在するような」気にさせる世界観はそのままに、医療とは何か、人の命とは何かをテーマに物語が展開していきます。

飛鹿(ピュイカ)に乗り故郷を守るために敵国「東乎瑠(ツオル)帝国」と死闘を繰り広げたものの、敗北し捕らえられた男「ヴァン」が岩塩鉱で過酷な労働を強いられている所から物語は始まります。

家族を流行り病で亡くしたヴァンは、あの戦いで自分も死にたかったと嘆きますが、いつも一人だけ生き残ってしまうのです。

そんな中、ヴァンが捕らえられていた岩塩鉱を黒い狼が襲います。

ひとり、またひとりと、狼の牙に噛まれていく囚人たち。

ヴァンもまた、抵抗したものの足を噛まれてしまいました。

その夜、ヴァンは酷い高熱と悪寒、自分が自分でなくなるような感覚に苦しむのですが、なんとか一晩を耐え抜くことが出来ました。

翌朝目を覚ました彼は、囚人のみならず看守や兵士たち、岩塩鉱全体に点々と広がる死体を目にするのです。

また一人生き残ってしまった。

死にたくてもまた死ねなかった、そんな思いを抱える彼の前に現れたのは、まだ言葉もままならぬ、小さな少女でした。

ヴァンはその少女を「ユナ」と名付け、「生き残ったものたち」は岩塩鉱を後にするのでした。

一方、岩塩鉱の一件について一報の届いた東乎瑠(ツオル)帝国は、一人の医術師を現場に派遣するのでした。

それがこの物語のもう一人の主人公「ホッサル」です。

彼は、オタワル聖領の出自であり高名な医術師である祖父に師事し、東乎瑠(ツオル)帝国の支配階層たちに名を馳せる若き天才医術師でした。

彼は、この一件を狼に噛まれた傷から入った病原菌が原因の「感染症」であると判断し、研究を始めます。

現代のように、まだ病理学の発展していないこの作品では正しい感染予防や感染症に対する知識は出てきません。

その中で、彼は曖昧ながらも病理に関しての知識を深めていきます。

やがて、感染症にかかりながらも生き残った男「ヴァン」と、感染症を研究する「ホッサル」が出会い、二人は民族統一に対する反発や政治的な策謀の見え隠れする、深い闇へと導かれていくのでした。

ここからはネタバレを含んだ感想となりますので、まだ読まれていない人はご注意ください!

小説『鹿の王』を読んだ感想(ネタバレ含む!)

この作品には、現代のような発展した医療知識はなく、ワクチンや治療薬を作るのにも手探り手探りで進んでいきます。

正しい感染予防、対策を持たない市民たちは次々と病に倒れていきますが、なんとかしてそれを救おうと尽力するホッサルの、「小さな気付き」に読者の皆様は手を打ったのではないでしょうか?

 

「病気とはなんなのか」「何故病にかかる者とかからない者がいるのか」それはけして「神が選ぶわけではない」ということを明確に解明するプロセスは圧巻の一言です。

我々現代人がなんとなく、当たり前に理解していることをファンタジーの世界観できちんと提示できる上橋先生の知識の深さに思わずため息を吐いてしまいました。

もう一人の主人公であるヴァンは、病という知識を持たないながらも生き残ったものとして、なんとなく自分が「病と共存している」という感覚を持ち始めます。

病と生きている、というのもまた、昨今の情勢を思い起こさせるのではないでしょうか?

彼がもう一人、ヴァンとともに生き残った少女「ユナ」に愛情を捧げ、彼が救った民族の少年たちと新たな家族を築く様が微笑ましいの一言です。

また、上橋先生の圧倒的な文章力に感動してしまいました。

私はヴァンが飛鹿で駆けるシーンが特に好きなのですが、木々のざわめきや小川のせせらぎ、空気の色や香りまで連想させるような独特で美しく、透明な言い回しが未だに心に残っています。

とくにラストシーン、あることを決意するヴァンの内心を表現した一言は本当に圧巻で読みながら机に伏せて泣いてしまいました。

まとめ

鹿の王は何度読んでも、その美しい言い回しや光の表現、病に関する考え方や生きていくこと対する考え方に感動できる作品です。

青い鳥文庫で可愛らしい挿絵と一緒に児童小説化もされていますので、お子様と一緒に読むのもいいかもしれませんね。

死ぬことで人は終わるわけではない、生きている人間に繋がっていくものがきちんとある、ということを心で理解させてくれる物語でした。

文庫版、ハードカバー版両方ございますので、隙間時間に読みたい方は文庫版をおすすめいたします。

ただ、読み始めると止まらなくなってしまう作品なのは確かです。

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